この記事では、そんなあなたの不安を少しでも和らげられるよう、浄土真宗の葬儀におけるお布施の相場から、具体的な内訳、さらには失礼にならないための正しい書き方やお金の入れ方、渡し方のマナーまで、網羅的に、そして分かりやすく解説していきます。
いざという時に慌てず、心を込めて僧侶にお渡しできるよう、一緒に確認していきましょう。
浄土真宗におけるお布施の考え方と葬儀での役割
まずはじめに、浄土真宗における「お布施」がどのような意味を持つのかを理解しておくことが大切です。これを押さえておくだけで、お布施に対する考え方が変わり、金額やマナーへの理解も深まります。
お布施は「お礼」であり「対価」ではない
多くの方が誤解しがちなのですが、お布施は読経や法名をいただくことへの「料金」や「対価」ではありません。お布施とは、仏様(ご本尊である阿弥陀如来)への感謝、そしてその教えを説き、葬儀を執り行ってくださる僧侶やお寺への感謝の気持ちを形にしたものです。
サンスクリット語の「ダーナ(dāna)」が語源であり、「与える」「施す」といった意味を持ちます。つまり、私たちが持つもの(財産)を施すことで執着から離れるという、仏道修行の一つと位置づけられています。
ですから、「料金を支払う」という感覚ではなく、「感謝の気持ちをお渡しする」という心を大切にしましょう。この考え方が、後述するお布施の書き方や渡し方のマナーにも繋がっていきます。
浄土真宗の教えとお布施の関係性
浄土真宗の教えの根幹には、「他力本願」という考え方があります。これは、自分の力(自力)で悟りを開くのではなく、阿弥陀如来の力(他力)によって救われ、浄土に往生するという教えです。
故人は亡くなると同時に、阿弥陀如来のお力によって迷うことなく浄土に往生し、仏になると考えられています(これを「往生即成仏(おうじょうそくじょうぶつ)」と言います)。
葬儀は、故人が仏になれるように祈る儀式ではなく、故人をご縁として、遺された私たちが阿弥陀如来の教えに触れ、感謝を捧げるための場なのです。この大切な儀式を執り行ってくださることへの感謝が、お布施の本質となります。
この点を理解しておくと、「葬儀のお布施はなぜ必要なのか」という疑問が解消され、より深い気持ちで準備ができるはずです。
浄土真宗、お布施相場は30万円~60万円が目安

それでは、最も気になる浄土真宗の葬儀におけるお布施の相場について具体的に見ていきましょう。あくまで目安ではありますが、一つの基準として参考にしてください。
浄土真宗の葬儀全体でのお布施の相場は、一般的に30万円~60万円と言われています。ただし、この金額はあくまで全国的な平均値であり、地域、お寺との関係性、いただく法名のランク、葬儀の形式などによって大きく変動します。
例えば、都市部では高くなる傾向があり、地方では比較的抑えられることもあります。また、先祖代々お世話になっている菩提寺がある場合は、相場よりも低くなるケースや、逆にお寺の格式によっては高くなるケースも考えられます。
葬儀形式ごとのお布施相場の違い
近年では葬儀の形式も多様化しており、形式によって僧侶にお勤めいただく日数や内容が異なるため、お布施の金額も変わってきます。
一般的な葬儀(2日間)の場合
お通夜と告別式を2日間にわたって行う最も一般的な葬儀形式です。この場合、僧侶には枕経(亡くなられてすぐにあげるお経)、お通夜、葬儀・告別式、火葬場での読経など、複数回にわたってお勤めいただきます。そのため、お布施の相場は30万円~60万円が目安となります。
一日葬の場合
お通夜を行わず、葬儀・告別式から火葬までを1日で執り行う形式です。僧侶のお勤めが1日になるため、お布施の相場は一般的な葬儀よりも少し抑えられ、15万円~30万円程度が目安となることが多いようです。
家族葬・直葬(火葬式)の場合
家族葬は参列者を家族や親族など親しい方のみに限定した葬儀ですが、儀式の内容自体は一般的な葬儀と変わらないため、お布施の相場も30万円~60万円が目安となります。
一方、直葬(火葬式)は、儀式を行わず火葬のみを執り行う形式です。もし火葬場で僧侶に読経をお願いする場合は、その読経に対するお布施として5万円~10万円程度が目安となります。
お布施の金額は何で決まる?内訳を徹底解説
「お布施」と一言で言っても、その中にはいくつかの要素が含まれています。内訳を知ることで、金額の根拠が分かり、納得してお渡しすることができます。主に「読経料」「法名料」「御車代」「御膳料」の4つに分けられます。
読経料:枕経から火葬場までのお経に対するお礼
読経料は、葬儀の際にお勤めいただく僧侶の読経に対する感謝の気持ちです。浄土真宗の一般的な葬儀では、以下のような場面で読経いただきます。
• 枕経(まくらぎょう): ご臨終後、ご遺体を安置した際に最初にあげていただくお経
• 通夜勤行(つやごんぎょう): お通夜での読経
• 葬儀勤行(そうぎごんぎょう): 葬儀・告別式での読経
• 火葬場での読経: 火葬炉の前で最後にあげていただくお経
これらの読経に対するお礼をまとめたものが読経料となります。
法名料(ほうみょうりょう):浄土真宗でいただく「法名」へのお礼
浄土真宗では、他の宗派でいう「戒名」のことを「法名(ほうみょう)」と呼びます。法名は、仏弟子になった証として授かる名前であり、生前にいただく(帰敬式を受ける)のが本来の姿ですが、亡くなられた後にいただくことも多くあります。
この法名を授けていただいたことに対するお礼が法名料です。法名にはランクがあり、一般的には「釋(しゃく)」(男性)、「釋尼(しゃくに)」(女性)の法号の上に2文字の法名をいただきます。より格式の高い「院号(いんごう)」を付ける場合は、お布施の金額も大きく上がります。
• 一般的な法名(釋・釋尼): お布施に含まれることが多い(別途不要な場合も)
• 院号法名: 20万円~(お寺への貢献度などによる)
院号を希望する場合は、必ず事前にお寺へ相談しましょう。
御車代:僧侶の交通費
御車代は、僧侶がお寺から葬儀式場や火葬場、自宅などへ移動する際の交通費としてお渡しするものです。相場は5,000円~1万円程度です。
もし喪主側で送迎の車(ハイヤーなど)を手配した場合は、お渡しする必要はありません。また、お布施の金額にこれらが含まれている場合もあるため、事前にお寺や葬儀社に確認すると良いでしょう。御車代は、お布施とは別の白い封筒に入れて用意するのが丁寧です。
御膳料(おぜんりょう):食事代
御膳料は、葬儀後の会食(通夜振る舞いや精進落としなど)に僧侶が参加されない場合にお渡しする、食事代にあたるものです。相場は5,000円~2万円程度です。
僧侶が会食に参加される場合は、お渡しする必要はありません。こちらも御車代と同様に、別の白い封筒に入れて用意し、お布施と一緒にお渡しします。
宗派による違いは?真宗大谷派と本願寺派のお布施相場
浄土真宗には、主に「真宗大谷派(しんしゅうおおたには)」(本山:東本願寺)と「浄土真宗本願寺派(じょうどしんしゅうほんがんじは)」(本山:西本願寺)の二大宗派があります。
お布施の相場に関して、この真宗大谷派と本願寺派で明確な金額の違いがあるわけではありません。どちらの宗派も、お布施の全国的な相場は30万円~60万円の範囲に収まることがほとんどです。
ただし、地域性やお寺ごとの考え方、慣習による違いの方が大きいと言えます。例えば、特定の地域では真宗大谷派のお寺が多く、その地域独自の相場観が形成されている場合もあります。不安な場合は、ご自身の所属するお寺の宗派を確認した上で、葬儀社や同じ門徒の方に相談してみるのが確実です。
浄土真宗のお布施の正しい書き方
お布施の金額が決まったら、次は準備です。特に袋の書き方は、宗派による特徴が表れる部分ですので、しっかりと確認しておきましょう。
表書きは「御布施」または「お布施」と書くのが基本
お布施袋の表面の上段に書く言葉を「表書き」と言います。浄土真宗の場合、表書きは「御布施」または「お布施」と書くのが一般的です。文字のバランスとしては、漢字で「御布施」と書く方が見栄えがよいでしょう。
なぜ「御霊前」は使わない?浄土真宗の死生観
香典袋などでよく目にする「御霊前」という表書きですが、浄土真宗の葬儀では使用しません。これは、前述した浄土真宗の「往生即成仏」の教えに基づいています。
他の多くの宗派では、故人は亡くなってから四十九日間、「霊」としてこの世とあの世の間をさまようと考えられています。そのため、故人の「霊」の前にお供えするという意味で「御霊前」を使います。
しかし、浄土真宗では、故人は亡くなるとすぐに阿弥陀如来のお力で浄土へ往き、仏になると考えられています。つまり、「霊」としてとどまる期間がないのです。そのため、「御霊前」という言葉は使わず、仏様(阿弥陀如来)への感謝を示す「御布施」や、仏様へのお供えを意味する「御仏前(ごぶつぜん)」という表書きを使います。
筆記用具は薄墨ではなく「濃墨」で書く理由
香典では、「悲しみの涙で墨が薄まった」「急なことで墨をする時間がなかった」といった意味を込めて薄墨を使うのがマナーとされています。
しかし、僧侶へお渡しするお布施は、不幸な出来事に対するものではなく、感謝の気持ちを示すものです。そのため、薄墨を使う必要はなく、通常の濃墨の筆や筆ペンを使って、はっきりと丁寧に書きます。これは、事前に準備ができるお礼であり、感謝の気持ちを明確に表すためです。
氏名の書き方|喪主のフルネームか「〇〇家」
表書きの「御布施」の文字の下、水引を挟んだ下段中央に、喪主の名前を書きます。書き方には2パターンあります。
1. 喪主の氏名(フルネーム)を書く
最も一般的な書き方です。例:「山田 太郎」
2. 「〇〇家」と書く
家としてお布施をお渡しするという意味合いになります。例:「山田家」
どちらの書き方でも問題ありませんが、迷った場合は喪主のフルネームを書いておけば間違いありません。
中袋の書き方も忘れずに|金額・住所・氏名を明記
お布施袋に中袋(または中包み)がある場合は、そちらにも必要事項を記入します。お寺側が管理しやすくなるように、という配慮からです。
中袋に書く金額は、改ざんを防ぐという意味合いから、漢数字の旧字体である大字(だいじ)で書くのが最も丁寧なマナーです。
金額は旧字体(大字)で書くのが丁寧
中袋に書く金額は、改ざんを防ぐという意味合いから、漢数字の旧字体である大字(だいじ)で書くのが最も丁寧なマナーです。
例:金 参拾萬圓也 (「圓」は「円」でも可)
【大字の例】
壱(一)、弐(二)、参(三)、伍(五)、拾(十)、阡(千)、萬(万)
もちろん、通常の漢数字(例:金 三十万円也)で書いても失礼にはあたりませんが、より丁寧に準備したい場合は大字を用いると良いでしょう。金額の最後に「也」を付けるのを忘れないようにしましょう。
お布施のお金の入れ方と包み方のマナー
香典では「急な不幸で新札を用意できなかった」という意味で、あえて古いお札を使うのがマナーとされています。しかし、お布施は僧侶への感謝の気持ちであり、事前に準備ができるものです。
そのため、できる限り新札(ピン札)を用意するのが望ましいとされています。銀行などで前もって準備しておきましょう。もし新札が手に入らない場合でも、なるべくシワや汚れのない綺麗なお札を選んで包むように心がけてください。
お札の向きと入れ方の手順
1. お札の向きを揃える: すべてのお札の向き(表裏、上下)を揃えます。
2. 封筒の表面側にお札の肖像画がくるように入れる: 封筒を開けたときに、最初に見えるのがお札の表面(福沢諭吉などの肖像画が描かれている面)になるようにします。
3. 肖像画が上になるように入れる: 封筒の入口側に肖像画がくるように入れます。
これは、お布施が「お礼」であるための配慮です。お悔やみごとである香典とは逆の入れ方になるので注意しましょう。
お布施の包み方|袱紗(ふくさ)を使うのが正式なマナー
用意したお布施袋を、そのまま手で持って渡すのはマナー違反です。必ず袱紗(ふくさ)に包んで持参しましょう。袱紗は、大切なものを汚さず、丁重に扱うという気持ちの表れです。
葬儀など弔事の際に使用する袱紗の色は、紫、紺、深緑、グレーなどの寒色系のものを選びます。紫色の袱紗は慶事・弔事どちらにも使えるため、一つ持っておくと便利です。
お布施を渡すタイミングと言葉
心を込めて準備したお布施も、渡し方ひとつで印象が変わります。スマートにお渡しできるよう、タイミングと添える言葉を確認しておきましょう。
お布施を渡す最適なタイミング
お布施を渡すタイミングに厳密な決まりはありませんが、僧侶が慌ただしくない時を見計らって、落ち着いてお渡しするのが理想です。一般的には、以下のタイミングが良いとされています。
• 葬儀が始まる前: 僧侶が式場に到着し、控室で挨拶をする際
• 葬儀が終わった後: すべての儀式が終わり、僧侶がお帰りになる前にお礼を述べる際
葬儀当日は慌ただしく、なかなかタイミングが掴めないこともあります。その場合は、後日お寺へ直接伺い、葬儀が無事に終わった報告とお礼を兼ねてお渡しするのもよいでしょう。事前に電話でアポイントを取ってから伺うのがマナーです。
僧侶へのお布施の渡し方と添える言葉の例文
お布施を渡す際は、必ず袱紗から取り出し、お盆に乗せて渡すのが最も丁寧な方法です。切手盆(きってぼん)という小さなお盆があれば最適ですが、なければお盆の代わりとして袱紗を座布団のように下に敷いて、その上にお布施袋を乗せて渡します。
渡す際は、お布施袋の正面が僧侶側に向くようにしてお渡しします。その際に添える言葉は、感謝の気持ちを伝えることが大切です。
葬儀前に渡す場合
「本日は、父〇〇の葬儀、どうぞよろしくお願いいたします。些少ではございますが、どうぞお納めください。」
葬儀後に渡す場合
「本日は、大変ご丁寧なお勤めを賜り、誠にありがとうございました。おかげさまで、滞りなく葬儀を終えることができました。些少ではございますが、こちらお納めください。」
御車代や御膳料を別でお渡しする場合は、「こちら御車代でございます」「御膳料でございますので、お納めください」と一言添えて、お布施と一緒にお渡ししましょう。
まとめ
浄土真宗の葬儀におけるお布施について、その考え方から具体的なマナーまで詳しく解説しました。まず最も大切なのは、浄土真宗のお布施は料金ではなく、ご本尊である阿弥陀如来と葬儀を執り行ってくださる僧侶への「感謝の気持ち」を表すものだということです。
具体的な葬儀のお布施相場としては、全体で30万円から60万円がひとつの目安となりますが、これは葬儀の形式や地域、お寺との関係性によって変動します。この金額には、読経料や法名料、そして場合によっては御車代や御膳料が含まれています。
お布施を準備する際には、袋の表書きを濃墨の筆で「御布施」と書き、浄土真宗の教えから「御霊前」は用いない点に注意しましょう。また、感謝の気持ちを表すため、中に入れるお札はできるだけ新札を用意し、向きを揃えて入れるのがマナーです。
そしてお渡しする際は、お布施を袱紗に包んで持参し、葬儀が始まる前や終わった後などに、丁寧なお礼の言葉と共に渡すように心がけてください。