この記事では、そんなお悩みを解消するため、曹洞宗におけるお布施の考え方から、具体的な金額相場と内訳までを徹底解説します。さらに、金額に悩んだときの相談先や、表書き・中袋の正しい書き方、袱紗(ふくさ)を使った丁寧な渡し方のマナーも、分かりやすくお伝えします。
最後までお読みいただくことで、曹洞宗のお布施に関する不安がなくなり、心から感謝を伝えられるようになるはずです。
そもそもお布施とは?曹洞宗における考え方
葬儀や法要の際に僧侶へお渡しする「お布施」ですが、その本来の意味をご存知でしょうか。お布施は、読経や戒名に対する「料金」や「サービス対価」ではありません。
仏教においてお布施は「布施行(ふせぎょう)」という修行の一つです。自分が持つものを他者に施すことで執着から離れる、という大切な修行であり、その精神を形にしたものが、私たちが渡すお布施なのです。
つまり、故人様を丁寧に弔ってくださった僧侶や、ご本尊、そしてそのお寺そのものに対する「感謝の気持ち」を表すためのものと言えます。日本の二大禅宗の一つである曹洞宗においても、この考え方は同じです。
曹洞宗は、ただひたすらに坐禅に打ち込む「只管打坐(しかんたざ)」を教えの中心に据えています。見返りを求めず、無心で実践する坐禅の精神は、お布施のあり方にも通じるものがあります。
したがって、「いくら支払わなければならない」という決まり(定価)は存在しません。あくまで、施主が無理のない範囲で、感謝の心を込めてお渡しすることが最も重要だとされています。
曹洞宗のお布施相場と気になる内訳
お布施が感謝の気持ちであることは理解できても、やはり具体的な金額の目安が分からないと準備に困ってしまいますよね。ここでは、曹洞宗の葬儀でお渡しするお布施の一般的な相場と、その内訳について詳しく見ていきましょう。
総額の目安は30万円~60万円が一般的
曹洞宗の一般的な葬儀(通夜・告別式の2日間)で渡すお布施の総額は、30万円~60万円が一つの目安とされています。ただし、これはあくまで全国的な平均から見た相場です。お布施の金額は、お寺との関係性の深さ、地域の慣習、そして後述する「戒名」のランクによって大きく変動します。
中には100万円以上になるケースもあれば、もっと少ない金額の場合もあります。「相場から外れているからダメ」ということは決してありませんので、一つの参考として捉えてください。
お布施の内訳を一覧で解説
「お布施」としてまとめてお渡しすることが多いですが、その中身は主に「読経料」「戒名料」の2つで構成されています。また、状況に応じて「御車代」や「御膳料」を別途用意します。
項目 | 内容 | 金額相場 |
---|---|---|
読経料 | 通夜、葬儀・告別式での 読経に対するお礼 |
15万円~30万円 |
戒名料 | 故人様に授けられる戒名 に対するお礼 |
15万円~100万円以上 |
御車代 | 僧侶に会場までお越し いただく交通費 |
5千円~1万円 |
御膳料 | 僧侶が会食を辞退された 際の食事代 |
5千円~2万円 |
・読経料(どきょうりょう)
通夜から葬儀・告別式、火葬場での読経まで、一連の儀式を執り行っていただくことへの感謝の気持ちです。
・戒名料(かいみょうりょう)
戒名とは、仏様の弟子になった証として授けられる名前のことです。この戒名を授けていただくことへのお礼が戒名料で、お布施の総額を左右する最も大きな要素となります。
・御車代(おくるまだい)
僧侶に自家用車や公共交通機関で葬儀会場までお越しいただいた場合に、交通費としてお渡しします。施主側でタクシーや送迎車を手配した場合は不要です。
・御膳料(ごぜんりょう)
通夜後の「通夜振る舞い」や、火葬後に行われる「精進落とし」といった会食の席に、僧侶が出席を辞退された場合にお渡しします。食事の代わりに、という心遣いです。
御車代と御膳料は、「お布施」と書かれた袋とは別の封筒に、それぞれ「御車代」「御膳料」と表書きをして用意するのがマナーです。
戒名のランクがお布施の金額を大きく左右する
曹洞宗の戒名は、基本的に「院号(いんごう)」「道号(どうごう)」「戒名(かいみょう)」「位号(いごう)」の4つの要素で構成されています。このうち、社会的な貢献度や信仰の深さなどによって授けられる「院号」や、性別・年齢などで決まる「位号」のランクによって、お布施(戒名料)の金額が大きく変わってきます。
位号の種類 | 戒名の例 | お布施(戒名料)の相場 |
---|---|---|
信士(しんじ) 信女(しんにょ) |
〇〇〇〇信士 | 15万円~30万円 |
居士(こじ) 大姉(だいし) |
〇〇〇〇居士 | 30万円~50万円 |
院信士(いんしんじ) 院信女(いんしんにょ) |
△△院〇〇〇〇信士 | 50万円~70万円 |
院居士(いんこじ) 院大姉(いんだいし) |
△△院〇〇〇〇居士 | 100万円以上 |
※上記はあくまで一般的な目安です。
「信士・信女」が最も一般的な位号です。生前に社会的に高い貢献をした方や、お寺への貢献が特に大きかった方などには「居士・大姉」や、さらに格式の高い「院号」が授けられることがあります。
どの戒名を授けていただくかについては、故人様の人柄や生き様を考慮し、菩提寺の僧侶とよく相談して決めることが大切です。
曹洞宗のお布施はなぜ「高い」と感じてしまうのか?

「曹洞宗のお布施は高い」という話を耳にすることがありますが、それにはいくつかの理由が考えられます。不安を解消するためにも、その背景を理解しておきましょう。
理由1:明確な料金表がなく金額が分かりにくいから
最も大きな理由は、冒頭で触れたように、お布施には「定価」がないことです。スーパーで野菜を買うように価格が明示されていれば迷うことはありませんが、お布施はあくまで「お気持ち」とされるため、施主側が相場を調べて判断する必要があります。
この金額の不透明さが、「いくら包めばよいか分からない」という不安を生み、「もしかしたら法外に高い金額を請求されるのでは?」という疑念につながりやすいのです。
理由2:戒名料が総額を押し上げているから
前述の通り、お布施の大部分を占めるのが戒名料です。特に「院号」が付くような格式の高い戒名を授かった場合、お布施の総額は100万円を超えることも珍しくありません。葬儀の他の費用(会場費や飲食費など)と合算すると、全体として「葬儀費用が高い」という印象につながりやすくなります。
他の宗派と比較して曹洞宗の戒名料が特別に高いというわけではありませんが、この戒名の仕組みが「お布施=高い」というイメージの一因となっていることは確かです。
理由3:お寺の維持・運営という大切な役割があるから
私たちが納めたお布施は、単に僧侶個人の収入になるわけではありません。歴史ある本堂や伽藍(がらん)の修繕費、境内地の管理費、さらには宗派全体を支えるための上納金など、お寺を未来へつないでいくための大切な運営資金として使われます。
由緒ある大きなお寺であればあるほど、その維持には多額の費用がかかります。私たちのお布施が、大切な菩提寺を守り、仏様の教えを後世に伝えていく一助になっていると考えると、その価値や意味合いも違って見えてくるのではないでしょうか。
葬儀だけじゃない!法事・法要のお布施相場一覧
故人様を弔う儀式は、葬儀だけで終わりではありません。その後も四十九日や一周忌といった大切な法事・法要が続きます。それぞれの場面でお布施が必要になりますので、こちらの相場一覧も参考にしてください。
初七日・四十九日法要のお布施相場
近年では、葬儀当日に火葬後の遺骨を迎える「還骨勤行(かんこつごんぎょう)」と合わせて「初七日法要」を繰り上げて行うことが増えています。この場合は、葬儀のお布施にまとめて含まれることが多いため、別途用意する必要はありません。
四十九日法要を別途、忌明けの節目として行う場合は、3万円~5万円がお布施の相場です。これに加えて、僧侶にお越しいただくための「御車代」(5千円~1万円)、会食を設ける場合は「御膳料」(5千円~2万円)を必要に応じて用意します。
一周忌・三回忌などの年忌法要のお布施相場
一周忌、三回忌、七回忌…と続く年忌法要でもお布施を用意します。
• 一周忌: 3万円~5万円
• 三回忌以降: 1万円~5万円
一般的に、最も重要とされる一周忌が少し手厚く、三回忌、七回忌と回忌を重ねるにつれて、少しずつ金額が落ち着いていく傾向にあります。もちろん、これも故人様やご先祖様への感謝の気持ちですので、ご自身の状況に合わせてお包みください。御車代、御膳料も四十九日と同様に考えます。
お盆(新盆・初盆)のお布施相場
故人様が亡くなってから初めて迎えるお盆を「新盆(にいぼん・あらぼん)」または「初盆(はつぼん)」と呼び、特に手厚く供養します。僧侶に自宅の仏壇の前で読経していただく「棚経(たなぎょう)」をお願いすることが多いです。
• 新盆・初盆: 3万円~5万円
• 通常のお盆: 5千円~2万円
新盆・初盆では、親族や知人を招いて法要を営むことが多いため、通常のお盆よりも丁寧に行うのが一般的です。
お布施の金額で悩んだら?後悔しないための最終手段
ここまで様々な相場やマナーを解説してきましたが、それでも「自分の場合はどうしたらいいのか」と迷ってしまうこともあるでしょう。そんな時に後悔しないための、最も確実な方法をお伝えします。
一番確実なのは、お世話になるお寺に直接尋ねること
最も確実で間違いがない方法は、お世話になる菩提寺の僧侶に直接お尋ねすることです。「お布施の金額を聞くなんて失礼では…」とためらうかもしれませんが、そんなことはありません。
お寺側も、施主が金額で悩んでいることはよく理解しています。むしろ、率直に尋ねてくれた方が、お互いにとって安心できる関係を築けます。
ただし、聞き方には少し配慮すると良いでしょう。「お布施はいくらですか?」と単刀直入に聞くのではなく、「皆様、お布施はどのくらいお包みされていらっしゃいますでしょうか」「初めてのことで相場が分からず、失礼があってはいけませんので、目安をお教えいただけますでしょうか」といったように、丁寧な言葉遣いを心がけるとスムーズです。
葬儀社に相談してみるのも有効な方法
もしお寺に直接聞きにくい場合は、依頼する葬儀社に相談するのも非常に有効な手段です。葬儀社の担当者は、地域の葬儀事情や宗派ごとの慣習に精通しています。
付き合いのある特定のお寺の相場感を把握していることも多いため、的確なアドバイスをもらえる可能性が高いでしょう。複数の葬儀社から話を聞いてみるのも参考になります。
曹洞宗のお布施の正しい書き方
お布施の金額が決まったら、次は準備です。特に袋の書き方は、宗派による特徴が表れる部分ですので、しっかりと確認しておきましょう。
表書きは「御布施」または「お布施」と書くのが基本
お布施袋の表面の上段に書く言葉を「表書き」と言います。曹洞宗の場合、表書きは「御布施」または「お布施」と書くのが一般的です。文字のバランスとしては、漢字で「御布施」と書く方が見栄えがよいでしょう。
筆記用具は薄墨ではなく「濃墨」で書く理由
香典では、「悲しみの涙で墨が薄まった」「急なことで墨をする時間がなかった」といった意味を込めて薄墨を使うのがマナーとされています。
しかし、僧侶へお渡しするお布施は、不幸な出来事に対するものではなく、感謝の気持ちを示すものです。そのため、薄墨を使う必要はなく、通常の濃墨の筆や筆ペンを使って、はっきりと丁寧に書きます。これは、事前に準備ができるお礼であり、感謝の気持ちを明確に表すためです。
氏名の書き方|喪主のフルネームか「〇〇家」
表書きの「御布施」の文字の下、水引を挟んだ下段中央に、喪主の名前を書きます。書き方には2パターンあります。
1. 喪主の氏名(フルネーム)を書く
最も一般的な書き方です。例:「山田 太郎」
2. 「〇〇家」と書く
家としてお布施をお渡しするという意味合いになります。例:「山田家」
どちらの書き方でも問題ありませんが、迷った場合は喪主のフルネームを書いておけば間違いありません。
中袋の書き方も忘れずに|金額・住所・氏名を明記
お布施袋に中袋(または中包み)がある場合は、そちらにも必要事項を記入します。お寺側が管理しやすくなるように、という配慮からです。
中袋に書く金額は、改ざんを防ぐという意味合いから、漢数字の旧字体である大字(だいじ)で書くのが最も丁寧なマナーです。
金額は旧字体(大字)で書くのが丁寧
中袋に書く金額は、改ざんを防ぐという意味合いから、漢数字の旧字体である大字(だいじ)で書くのが最も丁寧なマナーです。
例:金 参拾萬圓也 (「圓」は「円」でも可)
【大字の例】
壱(一)、弐(二)、参(三)、伍(五)、拾(十)、阡(千)、萬(万)
もちろん、通常の漢数字(例:金 三十万円也)で書いても失礼にはあたりませんが、より丁寧に準備したい場合は大字を用いると良いでしょう。金額の最後に「也」を付けるのを忘れないようにしましょう。
お布施のお金の入れ方と包み方のマナー
香典では「急な不幸で新札を用意できなかった」という意味で、あえて古いお札を使うのがマナーとされています。しかし、お布施は僧侶への感謝の気持ちであり、事前に準備ができるものです。
そのため、できる限り新札(ピン札)を用意するのが望ましいとされています。銀行などで前もって準備しておきましょう。もし新札が手に入らない場合でも、なるべくシワや汚れのない綺麗なお札を選んで包むように心がけてください。
お札の向きと入れ方の手順
1. お札の向きを揃える: すべてのお札の向き(表裏、上下)を揃えます。
2. 封筒の表面側にお札の肖像画がくるように入れる: 封筒を開けたときに、最初に見えるのがお札の表面(福沢諭吉などの肖像画が描かれている面)になるようにします。
3. 肖像画が上になるように入れる: 封筒の入口側に肖像画がくるように入れます。
これは、お布施が「お礼」であるための配慮です。お悔やみごとである香典とは逆の入れ方になるので注意しましょう。
お布施の包み方|袱紗(ふくさ)を使うのが正式なマナー
用意したお布施袋を、そのまま手で持って渡すのはマナー違反です。必ず袱紗(ふくさ)に包んで持参しましょう。袱紗は、大切なものを汚さず、丁重に扱うという気持ちの表れです。
葬儀など弔事の際に使用する袱紗の色は、紫、紺、深緑、グレーなどの寒色系のものを選びます。紫色の袱紗は慶事・弔事どちらにも使えるため、一つ持っておくと便利です。
お布施を渡すタイミングと言葉
心を込めて準備したお布施も、渡し方ひとつで印象が変わります。スマートにお渡しできるよう、タイミングと添える言葉を確認しておきましょう。
お布施を渡す最適なタイミング
お布施を渡すタイミングに厳密な決まりはありませんが、僧侶が慌ただしくない時を見計らって、落ち着いてお渡しするのが理想です。一般的には、以下のタイミングが良いとされています。
• 葬儀が始まる前: 僧侶が式場に到着し、控室で挨拶をする際
• 葬儀が終わった後: すべての儀式が終わり、僧侶がお帰りになる前にお礼を述べる際
葬儀当日は慌ただしく、なかなかタイミングが掴めないこともあります。その場合は、後日お寺へ直接伺い、葬儀が無事に終わった報告とお礼を兼ねてお渡しするのもよいでしょう。事前に電話でアポイントを取ってから伺うのがマナーです。
僧侶へのお布施の渡し方と添える言葉の例文
お布施を渡す際は、必ず袱紗から取り出し、お盆に乗せて渡すのが最も丁寧な方法です。切手盆(きってぼん)という小さなお盆があれば最適ですが、なければお盆の代わりとして袱紗を座布団のように下に敷いて、その上にお布施袋を乗せて渡します。
渡す際は、お布施袋の正面が僧侶側に向くようにしてお渡しします。その際に添える言葉は、感謝の気持ちを伝えることが大切です。
葬儀前に渡す場合
「本日は、父〇〇の葬儀、どうぞよろしくお願いいたします。些少ではございますが、どうぞお納めください。」
葬儀後に渡す場合
「本日は、大変ご丁寧なお勤めを賜り、誠にありがとうございました。おかげさまで、滞りなく葬儀を終えることができました。些少ではございますが、こちらお納めください。」
御車代や御膳料を別でお渡しする場合は、「こちら御車代でございます」「御膳料でございますので、お納めください」と一言添えて、お布施と一緒にお渡ししましょう。
まとめ
曹洞宗の葬儀や法要で渡すお布施について、その相場や内訳、書き方、マナーを解説してきました。曹洞宗の葬儀でのお布施相場は30万円から60万円がひとつの目安となりますが、この金額は故人様に授けられる「戒名」のランクによって大きく変動します。
お布施に定価がなく、こうした戒名料が含まれることなどが、相場が「高い」と感じられる一因と言えるでしょう。また、お布施は葬儀だけでなく、その後の四十九日や一周忌といった法事・法要ごとにも必要になるため、一覧を参考にそれぞれの相場を把握しておくと安心です。
金額の準備と合わせて、お布施袋の書き方や当日の渡し方といった細かなマナーも、失礼のないよう事前に確認しておくことが大切です。そして何より、もし金額に迷ったら一人で悩まず、お世話になるお寺や葬儀社へ相談するのが最善の方法です。