受付は式全体の印象を左右する大切な役割だからこそ、正しいやり方とマナーを押さえておく必要があります。
本記事では、葬儀受付の基本、挨拶や言葉遣いのポイント、返礼品の渡し方まで徹底解説します。
葬儀の受付とは?役割と基本マナー
葬儀における受付の位置づけと重要性
葬儀の受付は、参列者と遺族をつなぐ最初の接点であり、式全体の印象を左右する重要な役割を担います。到着直後の案内、香典の受け取り、芳名帳(参列者名を記録する帳簿)への記入のご案内、返礼品のお渡しなど、会場内の基本動線はすべて受付から始まります。
受付は単なる事務ではなく、故人を偲ぶために集まった方々を丁重に迎え入れ、遺族の感謝の気持ちを代弁する場です。ここでの所作や言葉遣いが落ち着いていれば、参列者は安心して式に臨め、遺族は進行に集中できます。
また、香典や返礼品の管理は金銭・物品の取り扱いを含むため、正確性と透明性が求められます。受付の段取りが整っていることは、開式後の混雑緩和や滞留防止にも直結します。
受付係が担う主な仕事内容
受付係の主な業務は次のとおりです。式の規模や宗派にかかわらず、基本は共通します。
- 参列者を迎え、会釈やお辞儀で丁寧に応対する(黙礼が基本。声は落ち着いたトーン)
- 香典の受け取り:表書きと氏名を確認し、香典帳へ記録。香典袋は金額未開封で保管し、箱・封筒へ整理
- 芳名帳のご案内:筆記具の用意、記入位置・書式の簡潔な説明、記入後の誘導
- 返礼品の手渡し:個数管理、二重配布や渡し漏れの防止、在庫数の逐次確認
- 道案内・誘導:席次(親族席・一般席)の案内、クロークや化粧室、焼香順のご説明
- 式後の事務:香典の集計(人数・件数・総額)、返礼品の残数確認、記録物の引き継ぎ
混雑時は列形成を促し、記帳と香典受け取りを分業するなど、滞留を生まない配置が有効です。葬儀社スタッフとの連携(到着連絡、欠礼者対応、弔電の取りまとめなど)も円滑な進行に不可欠です。
初めて担当する際の心構え
初めての受付では緊張しがちですが、「自分は遺族の代わりに参列者をお迎えしている」という意識を持つと、所作が自然と丁寧になります。
服装は喪服または準喪服を基本とし、装飾は控えめに。髪型は整え、光沢の強い素材や派手な色は避けます。名刺交換のようなビジネス的所作は不要で、黙礼中心を心がけましょう。
声のトーンは小さすぎず大きすぎず、短く明瞭に。「いらっしゃいましたら、こちらにご記帳をお願いいたします」「恐れ入ります、香典をお預かりいたします」「返礼品をお受け取りください」など、よく使う定型フレーズを事前に口慣らししておくと戸惑いを減らせます。
質問対応も想定し、「焼香の順番」「席は自由か」「僧侶入場のタイミング」などの基本を共有しておくと安心です。
準備段階では、記帳台・ペン・消毒・香典受領用の箱や封筒、返礼品の配置と数、動線(入口→記帳→香典→返礼品→着席)の確認を。
香典の取り扱いは金銭管理に直結するため、受領後すぐ合箱せず、一時置きのトレーを用意して順番に処理する、担当者を固定するなどのルール化が有効です。引き継ぎ時は香典帳・件数・総額・返礼品残数を必ず相互確認し、記録に残します。
受付は式の表玄関です。笑顔は控えめに、落ち着いた表情と丁寧な姿勢で、短い言葉に気持ちを添える――その積み重ねが、参列者と遺族の安心につながります。
事前準備と基本フレーズの習熟、そして正確な記録・引き継ぎ。この三点を押さえれば、初めてでも十分に務まります。
葬儀受付のやり方|当日の流れと準備
開式前に準備する物品と会場配置
受付業務は、開式前の準備から始まります。物品や会場配置が整っていないと、参列者対応が滞り、式の進行に影響を及ぼすため、事前の段取りが重要です。準備すべき物品には以下が含まれます。
- 芳名帳または記帳カード、筆記具(予備を含む)
- 香典を受け取るための受け皿やトレー
- 香典袋をまとめる封筒・箱、仕分け用ゴムバンド
- 返礼品(袋や包装の破損がないか確認)
- 案内用の立て札や張り紙
- 消毒液、予備マスク(感染症対策が必要な場合)
会場配置では、入口から見て「記帳→香典→返礼品→着席」という順路が自然になるように机や椅子を配置します。
混雑を避けるため、スペースに余裕を持たせ、参列者が立ち止まりやすい位置に係員を配置するとスムーズです。
参列者の案内と香典の受け取り手順
参列者が来場したら、まずは軽く一礼し、落ち着いた声で記帳の案内を行います。香典は必ず両手で受け取り、「お預かりいたします」と一言添えてから所定の場所に置くことが大切です。受け取った香典はその場で開封せず、封筒の表書きと氏名を確認して香典帳に記録します。
受付が複数人の場合は、「記帳係」「香典受け取り係」「返礼品係」と役割を明確に分け、列の流れを止めない工夫をします。混雑時は、列整理の係を配置し、会場入口付近で順番を促すと滞留防止につながります。
芳名帳・記帳台の運営方法
芳名帳は参列者の記録を残す重要な帳簿です。記帳台は明るく書きやすい位置に設置し、筆記具は複数本用意しておきます。筆記具は黒インクのペンや毛筆ペンを使用し、鉛筆や色付きインクは避けます。
記帳の流れは、係員が「こちらにご記帳をお願いします」と促し、書き終わった方にはスムーズに香典受付へ移動してもらえるようにします。
記帳漏れや書き間違いがあった場合は、やり直し用の紙やカードを準備しておくと安心です。高齢者や足の不自由な方には、椅子付きの記帳スペースを用意すると配慮が行き届きます。
式終了後の香典集計と引き継ぎ
式が終わったら、香典の集計と引き継ぎを行います。香典は人数・件数・金額の三点を必ず確認し、香典帳の記録と照合します。集計は複数名で立ち会い、金額や氏名の転記ミスを防ぎます。
返礼品の残数や未受け取り者の有無も併せて確認し、遺族または葬儀社に報告します。引き継ぎの際は、香典・香典帳・返礼品残数の記録をまとめた引き継ぎ書を作成し、受領者に署名をもらうと安心です。
この一連の流れを確実に行うことで、葬儀全体の信頼性と透明性が保たれます。受付業務は式の「顔」であると同時に、正確な事務処理を担う重要な役割でもあります。
葬儀受付での挨拶と受け答えの言葉例

参列者到着時に使う挨拶例
受付は参列者が最初に接する場所のため、落ち着いた表情と声のトーンで応対することが大切です。葬儀の場では過度に明るい笑顔や元気すぎる声は避け、静かで誠実な雰囲気を保つことが基本です。到着時の定番フレーズとしては以下が挙げられます。
- 「本日はご会葬いただき、誠にありがとうございます」
- 「お寒い中(お忙しい中)お越しいただき、ありがとうございます」
声は小さすぎると聞き取りづらく、大きすぎると場の雰囲気を壊してしまいます。目線を合わせ、軽く一礼を添えるとより丁寧な印象になります。
香典を受け取る際の適切な言葉
香典を受け取るときは、必ず両手で受け取り、深めの会釈をします。言葉は簡潔に「お預かりいたします」または「確かにお預かりいたします」とし、余計な説明や金額に触れる発言は避けるのがマナーです。場合によっては「ご丁寧にありがとうございます」と添えることもあります。
香典袋は受け取った直後にそのまま置かず、トレーや香典受け皿に一旦置いてから整理係へ渡します。これにより不注意で落とす・紛失するといったリスクを減らせます。
返礼品を渡す際に添える一言
返礼品を手渡す際は、参列者が受け取りやすいよう持ち手を向けて両手で渡します。添える言葉は以下のような簡潔な表現が適しています。
- 「こちら、お納めください」
- 「本日はありがとうございます。こちらをお持ちください」
返礼品は数や種類を間違えると失礼にあたるため、事前に名簿や配布リストと照合し、未受け取り者がいないか確認します。複数の返礼品がある場合は、渡す順番やセット内容を統一しておくと混乱を防げます。
弔問客からの質問への応対例
受付では、参列者から式次第や会場案内に関する質問を受けることがあります。よくある質問と応対例は以下の通りです。
- 「焼香はいつですか?」→「開式後、読経のあとにご案内いたします」
- 「席は自由ですか?」→「はい、自由席でございます。ご親族席は前方左側です」
- 「僧侶はどなたですか?」→「○○寺の△△住職でございます」
不明な質問は曖昧に答えず、「確認してまいります」と返すことで、間違った案内による混乱を防ぎます。丁寧な受け答えは、遺族や葬儀全体の印象を良くする大切な要素です。
返礼品の渡し方と実務の流れ
返礼品の意味と種類
返礼品は、香典やお供え物をいただいたことへのお礼として参列者にお渡しする品物です。「香典返し」と呼ばれる場合もありますが、葬儀当日にお渡しするものは即日返しが一般的です。
品物は、食品(お茶・海苔・菓子類)、日用品(タオル・洗剤セット)、ギフトカードなどが主流で、消耗品が好まれる傾向があります。
地域や宗派によって選ばれる品や相場が異なる場合があるため、事前に葬儀社や親族と相談して内容を決定します。包装紙やのし紙の表書きも弔事専用(「志」や「偲び草」など)にすることが大切です。
渡すタイミングと動作の手順
返礼品を渡すタイミングは大きく分けて「受付時」と「退場時」の2つがあります。受付時に渡す場合は、香典受け取り後にその場で手渡し、退場時に渡す場合は出口付近で係員が一人ずつ確認して渡す形です。
渡す際は両手で持ち、参列者が受け取りやすい向きに差し出します。添える言葉は「こちらお納めください」「本日はありがとうございます」など簡潔な表現が好まれます。特に高齢者や荷物の多い方には、袋の持ち手部分を相手側に向けて渡すと配慮が感じられます。
渡し間違い防止のチェック方法
返礼品は参列者全員に渡すわけではなく、香典をいただいた方に限られる場合が多いため、名簿や香典帳と照合して渡し漏れや二重渡しを防ぐ必要があります。以下のようなチェック体制が有効です。
- 返礼品を渡す係と香典受付係を分け、名簿で受け渡し済みを確認
- 返礼品の置き場を受付から近くし、管理者を固定
- 複数種類がある場合は、種類ごとに箱や棚を分け、ラベルを貼る
また、在庫数は開始前と終了後に必ずカウントし、記録に残します。足りなくなる恐れがある場合は、予備を別途確保しておくと安心です。
未受け取り者の対応と報告
葬儀終了後に返礼品の未受け取り者が判明した場合は、速やかに郵送または後日手渡しの手配を行います。郵送の場合は弔事用の包装を保ちつつ、破損や変形を防ぐ梱包を行い、送り状には「志」などの文言を添えると丁寧です。
最終的に、返礼品の配布状況と残数をまとめ、遺族または葬儀社に報告します。返礼品の管理は、参列者への感謝の気持ちを形として伝える重要な役割であり、ミスのない対応が信頼につながります。
葬儀受付で失礼を避けるためのマナー総論

服装・身だしなみの基本
受付係は多くの参列者と接するため、見た目の印象が式全体の雰囲気に影響します。服装は喪服または準喪服を基本とし、黒無地で光沢のない生地を選ぶことが大切です。
女性はシンプルなワンピースやスーツ、男性はシングルのスーツに黒のネクタイが適しています。靴は黒無地の布製または革製で、ヒールは低めか安定感のあるものが望ましいです。
髪型は清潔感を重視し、長い髪はまとめます。アクセサリーは基本的に結婚指輪のみとし、着用する場合は一連のパールネックレスか小粒のパールイヤリング程度にとどめます。派手な化粧や香水は避け、落ち着いた印象を心がけます。
言葉遣いと声のトーンの注意点
葬儀の場では、言葉遣いが遺族や参列者への敬意を表す重要な要素となります。短く簡潔で丁寧な言葉を使い、過度な感情表現や冗談は控えることがマナーです。「ありがとうございます」「お預かりいたします」など、定型フレーズを自然に使えるようにしておくと安心です。
声のトーンは落ち着いた低めの声を意識し、小さすぎず大きすぎず、はっきりと発声します。参列者が聞き取りやすいように、言葉の最後まで発音することも大切です。相手の目を見て話し、適度にうなずくことで誠意が伝わります。
混雑時やトラブル時の落ち着いた対応
葬儀の受付では、参列者が集中する時間帯や予期せぬ事態に遭遇することがあります。混雑時は列整理や分業で流れを作り、慌てず落ち着いて対応することが重要です。必要に応じて「少々お待ちくださいませ」と声をかけ、待ってもらう間に他の係員へ連携します。
香典の氏名や金額の不一致、返礼品の不足、参列者からの急な依頼などのトラブルが発生した場合は、その場で判断せず責任者や葬儀社スタッフに確認を取ります。「確認してまいります」と一言添えることで、不安や不信感を与えずに済みます。
何よりも大切なのは、受付が式全体の雰囲気を壊さず、故人を偲ぶ場としての厳粛さを守ることです。落ち着いた所作と適切な判断が、遺族や参列者の安心感につながります。
まとめ|受付は葬儀全体を支える大切な役割
葬儀受付は、参列者と遺族をつなぐ窓口として、式全体の印象や進行のスムーズさを左右する重要な役割を担います。単なる香典受け渡しではなく、故人を偲び、遺族の感謝の気持ちを形にして伝える場であることを意識することが大切です。
開式前の準備段階では、物品や会場配置を整え、動線を確認することが欠かせません。当日は参列者を丁寧に迎え、香典や芳名帳の取り扱い、返礼品の配布などを正確かつ迅速に行います。その際の言葉遣いは短く丁寧にし、落ち着いた声のトーンと適切な所作で応対することが求められます。
また、混雑時やトラブル発生時には慌てず、係員同士の連携や責任者への確認を徹底し、場の雰囲気を壊さない対応を心がけます。返礼品の渡し方や管理も重要で、間違い防止のためのチェック体制や未受け取り者へのフォローは信頼につながります。
受付業務は事前準備・当日の応対・終了後の引き継ぎという3つの段階があり、それぞれに正確さと配慮が求められます。初めて担当する場合でも、基本マナーや流れを押さえておけば落ち着いて対応でき、遺族や参列者の安心感を支えることができます。
故人への敬意と遺族への配慮を胸に、心を込めて受付の役割を果たすこと。それが葬儀全体を支える、見えないけれど欠かせない力となります。